漢字ワールドものがたり 第3部 城の中の小さな声
第0話門のむこうへ
ことん。
六人は、城の門の前で顔を見合わせた。
たしかに、門の向こうから小さな音が聞こえた。
「ねえ、今の音、聞こえたよね?」
ソラがたずねると、ルウが羽を広げた。
「うん! 中で何か落ちたのかな?」
「俺にも聞こえたぞ」とレイが言った。
「だれかいるのかな?」とアカリ。
タクミは大きな門を見上げた。
「それより、この門、どうやって開けるんだろう?」
目の前には、背の高い木の門があった。
石のかべにはさまれるように立ち、二まいの大きなとびらが、まん中で合わさっている。
ソラは、とびらに手を当てた。
「ぼく、ちょっと押してみる!」
両手に力を入れた。
ぐぐっ。
けれど、門は動かなかった。
「うーん、重いなあ!」
「俺もやってみる」とレイがとなりに立った。
二人で力を合わせて押したが、まだ動かない。
タクミは、門のつなぎ目を調べた。
「ここは動きそうだよ。かんぬきも、外からは見えないね」
「では、みんなで少しずつ押してみるかの」とシンが言った。
アカリもソラのとなりへ来た。
「よし、みんなでやってみよう!」
ソラ、アカリ、レイ、タクミ、シンが門に手を当てた。
ルウは少しはなれた場所から見ていた。
「せえの!」
五人がいっしょに力を入れた。
ぎぎぎっ。
「あっ!」
門が、ほんの少し動いた。
「開いたよ!」とルウが羽を上げた。
「もう少しだ!」
ソラたちは、もう一度力を合わせた。
大きな門は、ゆっくりと内がわへ開いていった。

門のすき間から、明るい光がさしこんできた。
ソラは思わず、その先をのぞいた。
「わあ……!」
門の向こうには、広い中庭があった。
地面には四角い石がきれいにならび、その間から小さな草が顔を出している。
ところどころに低い木や花があり、奥には城の中へつづく石の階段が見えた。
「すごい! お城の中って、こんなふうになってるんだ!」
ソラは目をかがやかせた。
「思ったより広いね!」とルウ。
アカリも辺りを見回した。
「きれいな中庭だね。もっとこわい場所かと思ってた!」
「まだ中庭だぞ」とレイが言った。
「俺は、あの階段の先が気になるな」
ソラもうなずいた。
でも、その前に気になることがあった。
「そうだ! さっきの音!」
六人は、門の内がわを見た。
すると、タクミが足元に小さな木のかけらを見つけた。
「あれ? こんなものが落ちてるよ」
タクミはしゃがんで、かけらをひろった。
門の上の方には、木でできた小さな飾りがある。
その一部が、少し欠けているようにも見えた。
「もしかして、これが落ちた音だったのかな?」
「ことん、って?」とソラ。
「うん。小さいし、そんな音がしそうだよね」
タクミは木のかけらを見つめた。
でも、これが本当にさっきの音の正体なのかは分からない。
「そうかもしれないね」とルウが言った。
ソラは門の奥を見た。
音のことは気になるけれど、中庭にはもっと見てみたいものがたくさんある。
「ねえ、みんな! もう少し中を見てみようよ!」
六人は石だたみの上を歩き出した。
中庭には、小さな花がいくつも咲いていた。
石のすき間からのびた草が、日なたでゆれている。
そのときだった。
きゅっ。
「あれ?」
ソラは足を止めた。
「今、何か聞こえなかった?」
ルウも羽を止めた。
「うん。あっちの方からだね」
ルウが植えこみの方へ顔を向けた。
六人は耳をすませた。
きゅっ。
また、小さな声がした。
「何かいるのかな?」
ソラは、そっと植えこみに近づいた。
葉っぱの間に、白いものが見える。
「あっ!」
そこにいたのは、小さなウサギだった。
白い体の背中と耳の一部が、うすい茶色をしている。
黒くて丸い目が、ソラを見つめていた。

「ウサギだ!」
ソラは思わず大きな声を出した。
ウサギの長い耳が、ぴんと立った。
次のしゅんかん、ウサギは体をくるりと向けた。
「あっ、待って!」
ウサギは石だたみの上を走り出した。
ぴょん、ぴょん、ぴょん!
「行っちゃうよ!」とルウが言った。
ソラはあわてて走り出した。
「ぼく、あの子を見てみたい!」
レイもそのあとを追った。
「速いな! あんな小さな体なのに!」
アカリは、ウサギの走っていく先を見た。
「あっ! あの階段を上っていくよ!」
ウサギは中庭の奥にある石段へ向かっていた。
ソラは足を速めた。
ウサギは階段を二段、三段と上り、少し上でふり返った。
ソラと目が合った。
「あっ、止まった!」
ソラが近づこうとすると、ウサギはまた走り出した。
「どうして逃げちゃうんだろう?」
「びっくりしたのかもしれないね」とルウ。
タクミとシンも石段の下へ来た。
「上へつづいているみたいだね」とタクミが言った。
「足元に気をつけて進むんじゃぞ」とシン。
ソラは石段を見上げた。
城の門の向こうには、まだ知らない場所がいっぱいある。
そして、その先には小さなウサギがいる。
「よし! ぼくたちも行ってみよう!」
六人は、ウサギのあとを追って石段へ向かった。
城の中の冒険が、いよいよ始まった。