漢字ワールドものがたり 第1部 きえた道しるべ
第2話進むための一歩
ソラたちは「友」の字札を持って、草の道をさらに歩いた。風が弱まり、草の音も小さくなっている。やがて道の先に、大きな石がいくつもならぶ場所が見えた。
「あれ? この先、道が二つに分かれてるよ」とアカリが言った。
「どっちにも行けそうだね。ぼく、あの石の上から見てみたいな」
「まず足もとをたしかめよう。石がぬれているよ」とルウが言った。
少し先に、一人の少年が立っていた。地面を見つめ、どこを通れば先へ行けるか考えているようだった。
「ねえ、ここで字札を見なかった?」とソラが声をかけた。
「小さな木の札なら、向こうの石の間に見えた。だが、あそこへ行く道がよくない」
「ありがとう! ぼくはソラ。きみの名前は?」
「レイだ。あの石を通れれば、たしかめられるんだが」
アカリも近づいた。「レイ、どの石があぶないの? ルウもこっちへ来て!」
レイは手前の石をゆびさした。「俺がたしかめる。そこで見ていてくれ」
「いっしょに行こうよ!」とソラが言った。
「まず通れるかどうかだ。むりなら、ほかの道を考える」
レイはゆっくり石の近くまで進んだ。手前の石に足をのせると、ぐらりと動いた。レイはすぐに足を引いた。

「あぶない! その石、動くんだね」とアカリが言った。
「これじゃ先へ行けない。ほかの石なら大じょうぶかもしれない」
「ぼくも見てみるよ。あっちなら行けそう!」
ソラは横の草むらへ向かいかけた。しかし、石の向こうは道が細くなり、すぐそばの地面もぬれている。
「そこも近づきすぎない方がいいよ。少し遠回りでも、安全な道をさがそう」とルウが言った。
「遠回りか。先に行けるのに、もどるのはくやしいな」
「でも、字札を取れても、帰ってこられなかったらこまるよ」
レイは石の間の字札を見つめた。早くたどり着きたい。でも、あの石をふめば、またぐらりと動く。自分だけ先へ行っても、みんなはどうするのだろう。
「……分かった。俺が見たところを話す。みんなは、ほかの道を見てくれないか」
レイは、ぐらつく石と、そこから見える字札の場所をゆびで示した。今はみんなといっしょに字札を持ち帰りたかった。
「そうだね。まずどこが安全か、みんなでたしかめよう」とルウが言った。
「ぼくは左の草の道を見たい」
「わたしはこっち。レイ、さっきの石の場所をもう少し教えて!」
ルウが少し上から見て、草の間につづく細い道を見つけた。そこは石のある場所を大きく回り、字札の近くまでつながっていた。
「見つけた! こっちからなら、石をわたらなくてすみそう!」
四人は足もとをたしかめながら進んだ。レイは先を急がず、後ろのアカリとソラがついて来られるか、何度もふり向いた。

「レイ、さっきよりゆっくりだね」とソラが言った。
「早く行くことだけが、進むことじゃない。そう思ったんだ」
字札は石の間に引っかかっていたが、回りこんだ場所から手がとどいた。レイはしっかり足をつけ、字札を取った。
「取れた。『進む』に使う字だ」
「よかった! みんなで考えたから、ここまで来られたね」とアカリが言った。
「そうだな。俺一人では、この道に気づかなかった。ありがとう」
「レイがあぶない石に気づいてくれたから、ちがう道をさがせたんだよ」
「そうか。なら、あの足どりもむだじゃなかったな」
「ぼくも、またすぐ走り出すところだったよ」とソラが言った。
「これで二まい。道しるべに、少し近づいたね」とルウが言った。
レイは二まい目の字札をソラにわたした。先へ行く道は、まだつづいている。四人が歩き出したそのとき、少しはなれたところに人かげが見えた。

クロウだった。足を止めたソラたちの前で、クロウは短く言った。
「立ち止まると、今まで聞こえなかった音がある」
それだけを言い、クロウはその場を去っていった。ソラはしばらく、その方を見つめていた。
「今の言葉、どういうことなんだろう」
「分からない。今は字札をさがすのが先だ」とレイが言った。
ソラはうなずいた。手の中には二まいの字札。まだ二まい、さがすものがある。