漢字ワールドものがたり 第3部 城の中の小さな声
第4話回すと上がる?
とん、とん。
石の階段の上から、小さな音が聞こえた。
「やっぱり、ウサギだ!」
ソラは、目をかがやかせた。
六人は、塔の中の階段を上っていた。
階段は、ぐるぐると曲がりながら、上へつづいている。
「わあ、まだ上があるんだね!」
ソラが言うと、ルウも上を見た。
「どこまでつづいてるんだろう?」
「足元を見て進もうかの」とシンが言った。
六人は、ゆっくり階段を上った。
やがて、明るい光のさしこむ部屋に出た。
「ここが上かな?」
ソラは部屋を見回した。
向こうには、城壁へつづく広い通り道が見える。
けれど、その手前には、大きな木のかごがつり下がっていた。
かごは、人が通るところをふさいでいる。
「あれ? これじゃ通れないよ!」
ソラは、かごの下をのぞいた。
かがめば通れそうにも見えるが、頭をぶつけそうだ。
「無理に通らん方がよいな」とシン。
そのとき、向こうがわから小さな足音が聞こえた。
とん、とん。
「あの子、もう先へ行っちゃったのかな?」
アカリがたずねた。
「ウサギなら、かごの横を通れたのかも!」とルウ。
ソラは、かごを見上げた。
「じゃあ、ぼくたちも通れるようにしなくちゃ!」
ソラは、かごにつながった太いロープを見つけた。
ロープは天井の丸い車を通って、部屋の横へ伸びている。
「これを引いたら、上がるんじゃない?」
ソラはロープを両手でつかんだ。
「よいしょっ!」
ぐぐっ。
かごが、ほんの少し上がった。
「あっ! 上がったよ!」
ソラはもっと力を入れた。
けれど、かごはそこからなかなか上がらない。
「ううっ、重い!」
レイがそばに来た。
「俺も手つだおうか?」
「うん! でも、ちょっと待って!」
ソラは、いったん力をゆるめようとした。
すると、かごが下へ動いた。
「あっ!」
ソラはあわててロープをつかみ直した。
「手をはなしたら、下がっちゃう!」
「上げたままにできないと、通れないね」とアカリ。
ソラは、かごとロープを見くらべた。
ずっとロープを持っていたら、みんなが向こうへ行けない。
それに、こんなに重いものを手で引きつづけるのはたいへんだ。

「何か、ほかのやり方がないかなあ」
ソラは、ロープの先を目でたどった。
天井の丸い車から、かべの方へ。
その先は、大きな木のぼうにつながっていた。
ぼうの横には、手でにぎれそうな取っ手がついている。
「ねえ、あれは何だろう?」
ソラはロープから手をはなし、かごが下がりきったことをたしかめてから、取っ手の方へ歩いた。
タクミもついてきた。
「何かのしかけみたいだね!」
ソラは取っ手をにぎった。
「これ、動くのかな?」
そっと力を入れると、取っ手がぐるりと回った。
木のぼうも、いっしょに回った。
すると、ロープがぼうに少しずつまきついていった。
「あれっ?」
ソラは、かごの方を見た。
かごが、少し上がっている。
「わあ! 回したら、上がった!」
ソラは、もう一回、取っ手を回した。
ぐるり。
ロープが、また少しまきついた。
かごも、少し上がった。
「そうか! ロープを手で引かなくても、ここを回せばいいんだ!」
ソラはうれしくなった。
けれど、今度は反対に回してみると、ロープがゆるみ、かごが下がった。
「あっ、こっちは下がるんだ!」
「回す向きでちがうんだね!」とルウ。
ソラは、かごが上がる向きをたしかめた。
「よし、こっちだ!」
そのとき、タクミが木のぼうのそばにある小さな金具を見つけた。
「ソラ、ここを見て!」
「何?」
「この金具、回したぼうを止めておけるみたいだよ」
タクミは金具のかかるところをたしかめた。
「かごを上げてから、これで止められそう!」
「それなら、みんなで通れるね!」
ソラは、もう一度かごを見た。
「でも、上げているときは、下にいない方がいいよね」
レイがうなずいた。
「俺がたしかめる!」
レイは、かごの下にだれもいないことを見た。
シンも、かごのまわりをたしかめた。
「うむ。みんな、かごからはなれておる」
「じゃあ、回すよ!」
ソラは取っ手を両手でにぎった。
ぐるり、ぐるり。
回すたびに、ロープが木のぼうにまきついていく。
大きなかごが、ゆっくりと上がりはじめた。
「すごい、どんどん上がってる!」
アカリがうれしそうに言った。
「あと少し!」とルウ。
ソラは、かごがみんなの頭より高くなるまで回した。
「ここでいいかな?」
「よし、もう通れそうじゃ」とシン。
タクミが金具をかけ、木のぼうが回らないようにした。
ソラはそっと取っ手から手をはなした。
かごは下がらなかった。
「やったあ!」

ソラは、さっき引っぱったロープを見た。
「ぼく、力いっぱい引くことしか考えてなかったよ」
「回すと、少しずつ上げられるんだね」とアカリ。
タクミもうなずいた。
「しかけって、おもしろいなあ!」
六人は、かごがしっかり止まっていることをたしかめてから、通り道をぬけた。
そこには、石でできた長い通路がつづいていた。
両がわには高い石のかべがあり、頭の上には青い空が広がっている。
「わあ! 外だ!」
ソラは空を見上げた。
「城壁の上に出たんだね!」とルウ。
向こうには、石だたみの道がまっすぐつづいている。
その奥から、小さな足音が聞こえた。
とん、とん。
「ウサギだ!」
ソラは歩き出した。
けれど、今度は走らなかった。
あの子をまたびっくりさせたくなかったからだ。
六人は足元を見ながら、城壁の通路を進んだ。
すると、さっきまで聞こえていた足音が、ふっと止まった。
「……あれ?」
ソラは立ち止まった。
ウサギのすがたは、もう見えなかった。