漢字ワールドものがたり 第3部 城の中の小さな声

第5話小さな友をたすけよう

「ウサギ、どこへ行ったの?」

ソラは、城壁(じょうへき)の通路(つうろ)を見わたした。

石だたみの道が、奥(おく)へつづいている。

両(りょう)がわには高い石のかべがあり、その先には少し広い場所(ばしょ)が見えた。

けれど、ウサギのすがたはなかった。

「さっきまで、足音が聞こえたのにね」とルウ。

「俺(おれ)が先を見てくる!」

レイが歩き出した。

ソラもあとにつづこうとした。

そのとき、レイが手を上げた。

「待(ま)て! ここ、気をつけろ!」

ソラは足を止めた。

石だたみのはしに、四角いくぼみがあった。

雨水がたまるように作られた、小さな穴(あな)のような場所(ばしょ)だった。

「あっ!」

くぼみの中に、白いものが見えた。

小さなウサギだ。

ウサギは、石のかべに前足をかけ、上へ跳(と)ぼうとしていた。

ぴょん!

けれど、ふちまでは届(とど)かない。

ウサギは、また下へもどってしまった。

「ここにいたんだ!」

ソラはくぼみのそばにしゃがんだ。

「たすけてあげなくちゃ!」

くぼみに落ちたウサギに、ソラが手をのばす

ソラは、くぼみの中へそっと手を伸(の)ばした。

「こっちへおいで」

けれど、ウサギは体を小さくして、くぼみの奥(おく)へ逃(に)げた。

「あっ……」

ソラは手を止めた。

「また、こわがらせちゃったかな」

「手が近づくと、びっくりするのかもしれないね」とルウ。

アカリが、くぼみのふちを見た。

「ウサギが自分で上がってこられたらいいのにね」

「でも、この高さじゃ無理(むり)そうだぞ」とレイ。

タクミは、近くのかべぎわを見回した。

そこには、木の板(いた)が何まいか立てかけてあった。

「あっ、あれを使(つか)えるかも!」

タクミは、短(みじか)い板(いた)を一まい持(も)ってきた。

「これをかけたら、上ってこられるんじゃない?」

「いいね! やってみよう!」とソラ。

ソラとタクミは、板(いた)の下のはしをくぼみの底(そこ)に置(お)いた。

もう一方を石だたみの上にかけた。

板(いた)は、ななめになった。

「これで上れるかな?」

六人は少しはなれて、ウサギを見た。

ウサギは、板(いた)の近くまで来た。

前足をそっとのせる。

けれど、すぐに下がってしまった。

もう一度(いちど)のせても、上ろうとしない。

「あれ? どうして?」

ソラは首をかしげた。

「板(いた)をかけたのに……」

アカリは、くぼみの中の板(いた)を見た。

下から上まで、ずいぶんななめになっている。

「ねえ、これ、急(きゅう)すぎるんじゃない?」

「急(きゅう)すぎる?」とソラ。

「うん。上るところが、すごく急(きゅう)なんだよ」

アカリは、城(しろ)へ来る途中(とちゅう)の道を思い出した。

みんなで歩いてきた草の道には、ゆるやかな坂(さか)があった。

ななめになっていても、ゆっくり歩けば上れる道だった。

「あの坂(さか)みたいに、もっとゆるやかにできないかな?」

レイが、くぼみと板(いた)を見くらべた。

「なるほど。ななめになっていても、急(きゅう)すぎたら上りにくいんだな」

タクミは、かべぎわの木の板(いた)を思い出した。

「そうだ! もっと長い板(いた)があったよ!」

「長くしたら、ゆるやかになるかな?」とソラ。

「やってみよう!」とアカリ。

タクミとレイは、長い板(いた)を運(はこ)んできた。

ソラは、短(みじか)い板(いた)をくぼみから外した。

かわりに長い板(いた)をかけてみる。

すると、さっきよりずっとゆるやかな坂(さか)になった。

長い板でゆるやかな坂を作ると、ウサギが自分で上っていく

「わあ! これなら上りやすそう!」

ソラが言った。

「でも、板(いた)がずれたらあぶないね」とアカリ。

シンが、板(いた)の上のはしをささえた。

「ここが動(うご)かんように、わしがおさえておこう」

タクミとレイも、板(いた)がすべらないようにしっかりとめた。

ソラは、くぼみの中を見た。

ウサギは、まだ奥(おく)にいる。

「みんな、少しはなれよう」

ソラが言うと、六人は板(いた)からはなれた。

しばらくすると、ウサギがゆっくり顔を上げた。

長い耳が、ぴくりと動(うご)いた。

そして、板(いた)の方へ近づいた。

前足をのせる。

一歩。

もう一歩。

「上ってる……!」

ソラは、小さな声で言った。

ウサギは、ゆっくり坂(さか)を上っていった。

六人は、だまって見まもった。

あと少し。

もう少し。

ぴょん!

ウサギは、石だたみの上へ出た。

「やったあ!」

ソラは、うれしくなって両手(りょうて)を上げた。

アカリも、にっこり笑(わら)った。

「よかった!」

「ちゃんと出られたな!」とレイ。

タクミもうれしそうに板(いた)を見た。

「短(みじか)いのじゃ、だめだったのにね!」

「ゆるやかな坂(さか)にしたから上れたんだね」とルウ。

シンは、ウサギが石だたみの上にいるのを見て、ほっとしたようにうなずいた。

「よかったのう」

ウサギはしばらくその場所(ばしょ)にいた。

耳を動(うご)かし、六人の方を見ている。

やがて、くるりと体を向(む)けた。

そして、広場の方へぴょんぴょんと跳(は)ねていった。

ソラは、その小さな後ろすがたを見つめた。

「元気に行けそうだね」

「うん!」とルウ。

六人は、ウサギが自分で進(すす)んでいくのを見とどけた。

それから、城壁(じょうへき)の先にある広場へ歩いていった。

石だたみの広場は、これまでの通路(つうろ)よりずっと広かった。

外がわには石のかべがあり、その先には明るい空が広がっている。

ソラは顔を上げた。

「……わあ!」

目の前には、青い海が広がっていた。

どこまでもつづくような、大きな海。

遠くには、小さな島(しま)がいくつも見えた。

城壁の上の広場から、六人がはじめて海を見る

「すごい……!」

ソラは、しばらく声が出なかった。

「お城(しろ)の向(む)こうに、こんな景色(けしき)があったんだ!」

「きれいだね!」とアカリ。

「俺(おれ)、あの島(しま)が気になるな」とレイ。

タクミも、海を見つめた。

「どんなところなんだろう?」

ルウは、広い空を見上げた。

「まだまだ、知らない場所(ばしょ)がいっぱいあるんだね!」

ソラは、ここまでのことを思い出した。

消(き)えた道しるべ。

こわれた橋(はし)。

そして、やっとたどり着(つ)いた城(しろ)。

みんなで考えて、力を合わせて、ここまで来た。

でも、元の世界(せかい)へ帰る道は、まだ分からない。

あの古い道しるべの裏(うら)にあった、小さなしるしの意味(いみ)も分からないままだ。

ソラは、手すりのような石のかべのそばに立ち、もう一度(いちど)海を見た。

海の向(む)こうには、何があるんだろう。

どんな島(しま)があって、どんな景色(けしき)が広がっているんだろう。

「ぼく、あの海の向(む)こうも見てみたいな」

ソラは、目をかがやかせた。

六人は、広い海を見つめていた。

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